離婚

会計士さんとの話し合いでもこれ以上借り入れはできない、何とか今を乗り切らないと、という状況だった。

「貯蓄している分とかありませんか?あればそれで今はしのぎましょう。」との会計士さんの言葉に
「うー、私は貯蓄はないんだけれど、実は・・・」

このしばらく前に自宅で捜し物をしているときに偶然タンスの中で見つけてしまったものがあった。
嫁さんのものが入っている棚の衣服のさらに一番下に郵便局の定期貯金の通帳が出てきた、しかも3口分もちろん名義は嫁さんの名前で総額170万円。
見つけたときは頭の中???

普段から金がない金がないと愚痴をこぼされてるし、普段の生活はとても質素なものなのである。
ようは嫁さんのへそくりであった。そのときはどうしたものか対応を考えるのも面倒くさくそのまままた元の位置に戻しておいたのだけれど、会計士さんとの会話でそのことを思いだした。

「私がそれとなく奥さんに貯蓄がないか探りを入れてみましょう、今は会社を存続させることが重要ですから。」
との会計士さんの言葉に嫁さんを交えての話し合いになるのである。
小さな技工所とはいえ一応は法人として設立してあったので、嫁さんも一応取締役という書類上は肩書きがついていた。

「いえーぜんぜんためる余裕がなかったもので蓄えはなにもないんですよー」私も会計士さんもへそくりが170万もあるのは知っているものだから、内心はよくもまあそううそがつけるもんだ。
会社の存続の危機だぞ、といいたい気持ちから急激にこの女に対する気持ちが冷えていった。
会社が存続していかなければ収入も減るというのに、自分の目先のへそくりは使われたくないのである。

結局このときはどうにかこうにか経営は持ち直すのだが、このへそくりは最後まで仇をなすことになる。